Vol. 20: 日本語学習は続けよう
海外転勤が決まり、お子さんの教育環境が激変するとき、わが子が学校でどんなにつらい思いをするだろうと、どの親御さんも自分のこと以上に心配されます。それまで当たり前のように意味が分かり、意識さえしなかった人の話が、突然何を言っているのか分からなくなり、自分の言いたいことを伝えたくても、どう言ったらいいのか見当もつかないのですから、確かに心細く、不安でいっぱいでしょう。
このとき、お子さんが少しでも早く現地校の英語環境に慣れるように、日本語での学習をストップさせてしまうご家庭があります。「日本語は家で話しているのだから問題ない。それより1つでも英単語を覚えて現地の友達ができるように。レギュラークラスでみなといっしょに勉強ができるように」と考えてのことでしょう。
けれども、日本ですでに義務教育が始まっているお子さんの場合は、できるだけ学齢相応の勉強を続けさせるよう心がけてください。いくら家庭内で日本語を話していても、国語の説明文に出てくる単語、算数の応用問題の単語、社会でも理科でもその教科の中でしか使わない言葉は滅多に親子の会話には出てきません。それは年齢に応じた脳の発達を促すだけでなく、精神の発達も促す言葉で、人間として成長に関わる大切な栄養素です。
英語が第二外国語になる生徒のためのESLやELDに通っているうちは、色や数字、サバイバルイングリッシュとよばれる生活用語を習うだけで、学齢にふさわしい知識や思考を身につけるものではありません。日本語学習をストップさせてしまうと、精神の発達もそこで止まってしまい、受け答えだけでなく動作や行動にも影響の出ることがありますから、要注意です。
確かに補習校にせよ、塾にせよ、限られた授業時間で日本語を維持させようとする学習機関は、毎回宿題を出します。ロサンゼルスの補習校は土曜日が授業日ですから、金曜の夜は宿題を終らせるのに親子で格闘という話もよく聞きます。日本と同じ教科書を使うため、新出漢字も学齢どおりにどんどん増え、テストもあります。
脳みその容量が決まっているとしたら、英単語と漢字の2つを同時に入れていくなど、引っ越したばかりの「いま」は必要ないのではないか、現地校に通うだけで大きなストレスをかかえているのだから、せめて週末はゆっくりさせてやりたい――やさしい親心は分かりますが、日本語が通じる世界で友達と自由に話し、小さくなって過ごす5日分のストレスを解消してのびのびできるという利点もありますから、日本語学習はできるだけそのまま継続させてあげましょう。結果的にはそれが、きっとお子さんのためになります。