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Vol. 31: 黒人スイマーの登場

8月3日に始まったリオオリンピック、日本選手の大活躍でテレビに釘付けになった方も多いのではないでしょうか。通算金メダルの獲得数が23個という大記録を作った水泳のフェルプス選手には世界中が湧きましたが、アメリカでは女子100メートル自由形に五輪新記録で優勝したシモーン・マニュエル選手にも注目が集まりました。彼女がAfrican American(アフリカン・アメリカン=黒人)で初めて水泳で金メダルを獲得したからです。

「自分にとっては肌の色は関係ない。ただ一スイマーとしてやってきた」とインタビューでこたえるマニュエル選手は、現在名門スタンフォード大学に通う大学生で、チームメートとおしゃべりする様子を見ていると、明るく元気なお嬢さん。メダルや記録以外のことで騒がれるのが不本意なことも分かります。

確かに水泳王国のアメリカで、奴隷解放以来150年以上を経たアメリカで、なお“初”がつくことに驚かれる方もいるでしょう。けれども長くこの国に住み、同じプールに黄色人種はいても黒人といっしょになったことがなかった私には、彼女の登場はやはり大きな一歩に思えました。

人口が約300万人のオレンジ郡の中で、黒人は0.6%(2010年)と低く、東南アジア系、アラブ系、インド系など多くのアジアの民族が通う学校でもごく少数派になります。当然黒人差別を意識することもなく、白人警官の黒人容疑者射殺事件の後に起きた暴動のニュースに、根深い問題だと改めて気づく程度なのですが、「風とともに去りぬ」の舞台になったアトランタから引っ越してきた友人は、黒人への偏見はカリフォルニアのほうが強く感じると言います。

私自身の体験は息子の小学校時代までさかのぼります。おしゃべりが多く、落ち着きがないという、低学年にはよくいる黒人の男の子の監視を頼まれたとき、最初はすんなり注意ができませんでした。近所に住むインド人やイラク人家族とは、挨拶を交わし立ち話もして全く違和感なく生活していたので、躊躇する自分にショックを受けたことをいまもはっきり覚えています。とはいえ相手が小学生ですから猶予は無く、優しく言ってもきかない彼に「座りなさい!」と本気で叱ってから、「怖いミセスオダ」で一目置かれるようになりました。

自由と平等を標榜するアメリカで、オバマ大統領が当選しても、バスケットボールで黒人選手がどんなに活躍しても、踊りや歌の上手い黒人歌手が大ヒット曲を飛ばしても、残念ながら一般人の心の中ではまだ差別意識がなくなってはいません。それでも理想を高く掲げ、偏見を無くす努力を続けるこの国に敬意を表したいと思います。そうした努力の継続にこそ価値があると強く感じさせてくれたマニュエル選手に、心から拍手を送ります。

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