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Vol. 33: アメリカの懐

トランプ大統領の就任から早1ヶ月あまり経ちました。アメリカ人の間でもどんな政策を打ち出すかを話題にしていたところに、シリアを始めとするイスラム圏7カ国の国籍保持者への一時入国差し止めが発令されました。

  建国以来、移民を受け入れることで人口を増やし、国力を増大させ、世界をリードしてきたアメリカの「差別」ともとれる大統領令に対して、名指しされた国籍の人々だけでなく、今後どこの国が追加されるかという不安が日本人を含む全ての永住権保持者の間で広がっています。

  すでに住んでいる者でもそうなのですから、これから赴任予定のあるご家庭では、子供さんを通わせる学校の対応に神経質にならざるを得ないかもしれません。けれども、こと公教育に関して、私はアメリカの懐の深さを信じていいのではないかと思っています。

というのも、息子達を育てる中で、外国籍の者に対して差別は一度も感じたことがなかったからです。私の英語力が足りず、そこまで理解できなかったという面もあるかもしれませんが、どんな学年で編入しても一生徒として受け入れ、ABCから教える寛大さ、そして何年か後には一般生と同じ授業を受けられるだけの語学力をつけさせる、子供専用カリキュラムの精度は、他の追髄を許しません。指導するのが専門課程を修了した教員のため、知識や技量も一般教員とは違うこともあるでしょうが、驚くことにそれが無料で受けられるのです。

  それだけでなく、学力の高い生徒向けの高度な内容の授業をする「ゲイト(gate)プログラム」でも、国籍で差別されることはなく、平等に機会を与えられ、能力を伸ばすことができます。

  そうした姿勢は学校だけではありません。プロオーケストラ奏者から指導を受けられる、地元のユースオーケストラは100名近い団員の9割がアジア系です。13才~18才までのオーディションで選ばれたメンバーは、演奏技術を総合的に判断して選ばれ、民族の偏りを指摘する声はどこからも聞こえてきません。選抜後、3回の演奏会を終えて選出される奨学金受賞者も結果としてほとんどがアジア系になりますが、賞状を手渡す白人チェアマンは「すばらしい学生に恵まれ、ことしも立派なコンサートができて、こんなうれしいことはない」と笑顔で挨拶をします。

  国のトップが交代したことで、いままでと全く同じものを期待できない面は確かにあります。本音を表に出すことをはばからない人々が増えるかもしれません。それでもアメリカから自分たちと異なる人を受け入れる受け皿は無くならない、差別のない自由で平等な社会を築くことを目指す人間の育成に力を注ぎ続けると、私は確信しています。

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