不思議がいっぱいのサウジアラビア

 

サウジアラビアほど日本から遠い国はないのではないかと思う。

それは文字通り直線距離にして8700㎞ほど離れているのはもちろんであるが、我々日本人との価値観が全く異なるから。

だからこそ不思議がいっぱいで、とても興味深い国でもある。

メッカとメディナの二聖地を抱えていてイスラム圏の中でも最も信仰心が厚い。

 

私たち日本人がイスラム教について知っている事と言えば、毎日何回も礼拝する、一夫多妻、断食する、

女性は髪の毛をスカーフで覆い隠す、アルコールと豚肉は厳禁、くらいであろうか。

よほど関心が無い限り知りたいとも思わないし、あまり関わりたくない、というのが本音ではないだろうか。

私は20年前に主人の仕事に伴い2人の幼子を連れジェッダに赴任して4年間暮らし、そしてまたしてもご縁が有って

昨年1月からリヤドに暮らしている。

 

女性であれば、サウジアラビア人であろうが、外国人であろうが、ムスリムであろうとなかろうと必ず身に着けなくてはならないアバヤ。

色は黒が基調、足首まですっぽり隠れる長さでガウンのようなもの。

私も他のムスリム女性同様にサウジ空港に降り立つ前にアバヤを着る。従ってサウジ女性はアバヤでのおしゃれを楽しむ。

街のいたる所にアバヤショップが有る。

ビーズの飾りや刺繍があるもの、色々な模様の織が入った生地で仕立てられたもの、デザインや素材、サイズも種々様々。

私もお出掛け用、普段の買い物用、などと用途別でアバヤを使い分ける。

こちらの女の子は小3頃から身に着けはじめて、髪の毛をちゃんと隠すようになるのは小5頃から。

そして顔までしっかり隠すようになるのは中学校入学頃からというのが一般的。私はムスリムではないので顔は隠さない。

顔を隠した女性は、レストランや機内で食事をする時、顔のベールを少しだけめくって食べ物をポンと口へ運んですぐまたベールを下す、この作業を繰り返す。

 

イスラム教ではアルコールや豚肉はハラーム(厳禁)である。サウジを離陸してシートベルト着用サインが消えた機内では、

サウジ領空を脱出すると同時に、皆様お待ちかねアルコール飲料のサーブが一気に始まる。

私は日本から遠く離れたこのリヤドで主人のために和食作りに腕を振るおうにも日本酒はもちろん本みりんが手に入る訳は無く、

何か味に物足りなさを感じる。

この地に暮らす日本人は皆、チャーシュウ入りの豚骨ラーメンにカツ丼が食べたい!と、いつも思っているのである。

そしてなぜかこれも不思議、毎週末サウジの空港は、お酒が飲めて豚カツも食べられる隣国のバーレーンやドバイへ、

こぞって出掛ける人々で大混雑している。

 

イスラム教では、盗みや詐欺に賭け事、賄賂はもちろんハラームであるが、女性の車の運転、犬、楽器、

そしてお金の利子を支払ったり受け取ったりすることもハラーム。猫は町中にいっぱい居る。

預言者ムハンマドさんが「楽器の音色は悪魔の呼びかけである」と仰ったそうだ。だから音楽コンサートや映画館も存在しない。

もちろん学校では音楽の授業も無い。また「男女7歳にして席を同じくせず」の教え通り小学校から男女別々の学校で学ぶ。

公共交通機関も未発達で車の運転も許されない女性は基本一人では出歩かない。女医さんや学校の先生にならない限り働けもしない。

レストランの入り口や食べる場所も男性のみと家族用で分けられている。

アバヤのショップ、女性下着売り場、香水や化粧品売り場はもちろん男性店員だ。基本サウジ女性は一人で海外へも行けない。

男は一人自由に出入りできるのに。ここでは結婚していない男女がデートしたり手を繋いだり絶対できないし、

もう同棲なんてハラームもハラーム、自由恋愛などあり得ないのだ。本当に不思議がいっぱいのサウジアラビア。

 

私たち外国人駐在員家族は通常コンパウンドと呼ばれるセキュリティーがしっかりとした場所に住んでいる。

もの凄く高い塀に囲まれていて住人でさえ2重3重の厳重なセキュリティーチェックを通過してようやく中へ入れる特殊な場所である。

予め住人が来客の乗って来る車と身分証の登録を済ませて招待しない限り中へは入れない。

この中ではアバヤは必要無く、短パンにTシャツでOK。プールやテニスコート、映画館に公園、レストランやスーパーマーケット、

クリーニング店に美容院など生活に最低限必要なものは揃っている。

私が住んでいるコンパウンド内にはアメリカンスクールやジャーマンスクールまで有るから家族連れには安心で便利だ。

コンパウンドはサウジアラビアの中に存在する小さな“外国”。お祈りの時間でもお店はシャッターを下ろさずいつもOPEN,有り難い。

 

1日5回有るお祈り時間には、30分ほど全ての活動が停止する。全てのお店は消灯してシャッターを下ろす。

世界中どこに居ても聖地メッカの方角を教えてくれるアプリが有る。正確なお祈り時間を知らせてくれるアプリも有り、

私もインストールしていて、出掛ける前に必ずチェックする。せっかくやって来たのにお店が閉まっていた、ショック!

ということが無い様に。

 

ここまでの話、ついつい受け入れ難いマイナスイメージが、強くなってしまったが、サウジアラビアには良い面も有る。

何と、ガソリンは水より安い!。これは事実。そして滅多に雨が降らないから行事が雨天延期なんて殆ど無い。

アバヤの生地は質の高さからメイドインジャパンが一番とマダム達の絶大な支持を受けているのも有り難い。

それ等はさておき、こちらの友人から聞いた話では、イスラム教の中で育った子供たちには反抗期が無いそうである。

私も愚息の反抗期には手を焼かされた。イスラムの教えでは、人間は良い事をしたり悪い事をしたりして生きるものである。

死んだ時に自分が生前に行った善行と悪行が秤にかけられて善行の秤が重たければ天国へ行ける。

全てのムスリムは天国に行く事を究極の願いとしているから現世ではできる限りの善行を重ね神様に愛される様に生きる。

ついに死んだ時、善行の秤の方が重いと無事にお裁きをクリアすると天国へのドアが最大8つ用意されているという。

生存中に貧しい人々に沢山寄付したり、沢山断食したりと善行が多いと天国へのドアが増えて行く。

こうしたドアの中でも中央に一番大きく豪華で燦然と輝くドアは、生前、母親を大切にして、いっぱい笑顔にさせた人用。

母親孝行に対する神・アラーからの功徳は絶大で計り知れない。

この教えを小さい時から叩き込まれた子供たちは自ずと母親を大事にする。

母親孝行の子供達を沢山輩出してくれるイスラム教は本当に素晴らしいと思う。

 

現在日本には10万人前後のイスラム教徒が居ると言われている。

2020年には東京オリンピックも開催予定で今後イスラム圏から多くの人々が日本を訪れる事は間違い無く、彼らと一緒に働いたり、

結婚したりする人も珍しくない時代を迎えるかも知れない。

今後、日本人もイスラム教の考え方や価値観をきちんと理解しようとする姿勢はとても大切だと思う。